2022年3月23日水曜日

正四面体がいっぱい(4)

(4)自己相似で拡大する立体

「四面体がいっぱい(2)」では、正四面体と正八面体を積み重ねて、拡大正四面体をつくった。

同じ、この2種類のパーツを積み重ねて、拡大正八面体をつくることもできる。

このように、隙間なく積み重ねてもとの形と相似であるような立体ができるとき、それは空間を埋め尽くすことができる。

「正四面体がいっぱい(1)」では、立方体から三角錐を切り取る作業をした。そのときの切り取った三角錐と残された正四面体にも、同じような特徴(自己相似で拡大する)がみられる。
切り取った三角錐は4つで、正四面体と比べて高さが半分、ということであった。

この4つの三角錐を、直角三角形の面が互いにくっつくように並べると、それは辺の長さがすべて同じ四角錐になる。すなわち、正八面体を半分に切った立体になる。

このくっついた4つの三角錐を2つに分けたもの(菱形のシーソーみたいな形)を正四面体にくっつけてみる。

すると、左の写真のようになる。このシーソーみたいな形をもう一つつくって、正四面体のもう一つの面にくっつけると、右の写真のような拡大三角錐ができあがるのだ。
拡大三角錐の辺の長さも高さも、もとの三角錐の2倍になることがわかるだろう。
これもまた、自己相似的に拡大させていくことが可能だ。

つまり、下の写真のような2種類のパーツで、空間を埋めることが可能ということだ。
なんとなく「ペンローズ・タイル」を連想してしまう。

正四面体と正八面体で空間が充填できるということと、その比率が、正四面体:正八面体=2:1であったことから、2つの正四面体と1つの正八面体からなるユニット(単位)を考えてみた。
正八面体に2つの正四面体をくっつける方法は、3通りある。


①正八面体の隣り合う2面にくっつける
②台形の平面ができるようにくっつける
③正八面体の向かい合う平行な2面にくっつける

②と③については、このユニットを8個うまく組み合わせることで、自己相似形をつくることができた。

が、①については、あと一歩のところで完成できなかった。

この3つのユニットのいずれも、平面的に1段だけで隙間なく組み立てていくことはできそうなので、①②③ともに、空間充填が可能と思われる。(ユニット①については、充填パターンが不規則になりそう。)

最後に、自己相似形の代表的なものとして、シェルピンスキーのギャスケットを紹介しよう。
平面の場合は、正三角形から辺の中点を結ぶ逆正三角形を切り取り、残った3つの正三角形からさらに逆正三角形を切り取り、・・・とすると、下のような自己相似形模様(相似的な繰り返し文様)が現れる。

この作業を正四面体の立体で行うと、もとの正四面体からびったり収まる正八面体を取り除き、残った4つの正四面体からまた正八面体を取り除き、・・・と繰り返すことによって、中身がスカスカな自己相似形の立体ができあがる。


取り除き作業を繰り返していくと、もとの大きな正四面体に対して、体積はどんどんと0に近づくのに、表面積(小さな正四面体の表面積の和)はもとの正四面体の表面積と変わらない。見る方向によって、隙間のない正方形に見えるなど、面白い性質をもっている。

ずいぶん前に、生徒たちと大きなシェルピンスキーギャスケットをつくったことがある。厚紙を折ってつくった1024個の小さな正四面体を積み上げていく作業はたいへんだったが、それに見合うだけの感動が得られた。



(忙しくなってきたので、投稿はしばらくお休みにします。)

2022年3月22日火曜日

正四面体がいっぱい(3)

(3)自然の中の正四面体

昨日の問題の答えは、次のようになる。

正方形の面をくっつけることで、正四面体ができあがる。
正四面体の切断面には、正三角形だけでなく、正方形になる場合があるのだ。

こんなものをつくってみた。アクリル板で正四面体をつくり、その中に細かな砂を入れる。正四面体の向きを変えることで砂の面も変わり、「切断面が見える」というものだ。
(中に入っている砂は、サウジアラビアの砂漠の砂。1970年の万博でもらってきたもの。)


さて、正四面体構造をもっているいろいろな物質をみてみよう。
たとえば、ダイヤモンド。
正四面体状に、炭素Cが頑丈に結合している。

たとえば、水(氷)。
水分子は、単体ではH2Oで表されるが、水分子同士が互いを引きつけあい、隣り合う4つの分子が正四面体構造を形成していく。

たとえば、土の成分、二酸化ケイ素 SiO2。
正八面体の外側に4つの正四面体をしたがえているようなスタイルで積み上がる。
2種類の元素が正四面体構造を形成するとき、たとえば、水(H2O)も、二酸化ケイ素(SiO2)も、その割合は、1:2になっている。
これは、正八面体と正四面体を組み合わせて空間を充填したときの割合が「1:2」に近づいていった作業および計算結果に一致する。

このように自然界によく見られる正四面体構造であるが、中央からバランスよく外側に伸びる4本の手の、どの2本の角度も「109.5°」になることが知られている。これを数学的に確かめてみよう。

中央の原子を始点とし、正四面体の頂点方向に、aベクトル(→a)、bベクトル(→b)、cベクトル(→c)、dベクトル(→d)が引っ張り合い、バランスがとれているとする。それぞれのベクトルの大きさはすべて「1」、手のなす角をθとする。

(→a)・(→b)=(→b)・(→c)=(→c)・(→a)=1×1×cosθ=cosθ ・・・①
(→a)+(→b)+(→c)=ー(→d) ・・・② が成り立つ。
|(→d)|=|(→a)+(→b)+(→c)|
=√((|a|^2)+(|b|^2)+(|c|^2)+2(→a)・(→b)+2(→b)・(→c)+2(→c)・(→a))
=√(1+1+1+2cosθ+2cosθ+2cosθ)=√(3+6cosθ)
|(→d)|=1 であるから、
3+6cosθ=1 すなわち cosθ=ー1/3 が導ける。
このとき、θ≒109.5° 

この「109.5°」は正八面体の二面角の値であった。すなわち、正八面体の隣に4つの正四面体を有するような正四面体構造において、この「109.5°」はたいへん重要な値であり、必然であったということだ。

また、すでに、「ビー玉を収める」や「ビー玉を積む」で検証したように、最密に積み上げたビー玉は、正六角形や正六角柱を形成する。この正四面体構造もまた、この構造と同等のものといえる。
雪の結晶や鉱物の結晶が正六角形を描くのは、このような理由によるのだ。

2022年3月21日月曜日

正四面体がいっぱい(2)

(2)正四面体を切る

昨日つくった正四面体を、今度は、正四面体の1つの面に平行で、辺の中点を含むように切断する。切り取った立体は小さな正四面体になることがわかる。では、この小さい正四面体は、もとの大きな正四面体からいくつ切り出せるか。また、切断して残った立体はどんな形になるか。

正四面体は4つの頂点をもつので、切り取る小さな正四面体が4つになることは予想がつくが、これらを取り除いて残った立体の形が何になるか、即答できる生徒は少ない。

では、実際に切ってみよう。

中から出てきたのは「正八面体」であった。斜め上から見た方が分かりやすいかもしれない。
以前に、色画用紙でこんなものをつくったことがある。

上の小さい正四面体を外したら中央はこんな感じだよね、といって見せても、なにこれ?、という生徒が多かった。(そんな風に反応してくれることが嬉しいのだが。)

正四面体は、これら5つの立体に分解される。逆に見れば、4つの正四面体と1つの正八面体で、一回り大きな正四面体がつくれるということだ。
ここで、前回測定した「二面角」を思い出してみよう。正四面体の二面角が「70.5°」、正八面体の二面角が「109.5°」であった。隣り合う正四面体と正八面体は、フラットな平面(180°)を生みだすことがこの数値からもわかる。
二面角の値から、正四面体だけでも正八面体だけでも空間を隙間なく埋めることはできないが、この2つを組み合わせれば空間を充填できるのではないか、ということが予想できる。

実際に、たくさんの正四面体と正八面体を組み合わせて、隙間なく充填できるかどうか確かめてみよう。

こんな風に、巨大正四面体を限りなくつくっていくことができそうだ。

では、このようにして広い空間を正四面体と正八面体の2種類のパーツで充填していったとき、これらのパーツの「割合」(正四面体/正八面体)はどのようになるだろうか。

[1段] 正四面体:1個  正八面体:0個  割合:―
[2段] 正四面体:4個  正八面体:1個  割合:4.0
[3段] 正四面体:11個  正八面体:4個  割合:2.75
[4段] 正四面体:24個  正八面体:10個  割合:2.4
[5段] 正四面体:45個  正八面体:20個  割合:2.25
[n段] 正四面体:(1/3)×n×(n^2+2)個  正八面体:(1/6)×n×(n^2-1)個  割合:2.0に近づく

以前、次のような問題を見たことがある。
「すべての辺の長さが1の正四角錐(A)と正三角錐(正四面体:B)がある。AとBを1個ずつ、いずれかの正三角形の面をぴったりと貼り合わせるとき、できる立体は何面体か。」というもの。

5面体と4面体を貼り合わせるので、5+4-2=7で、「7面体」としてはいけないのだろうな、ということは予想されるが、頭の中で正解を導くのは難しい。
しかし、この正四面体と正八面体の積み木を経験した人は、なんとなく気づくのではないだろうか。

正四角錐は正八面体の半分であることに気づいた人は、くっつけたときフラットになる面が出てくると予想する。そしてフラットになる面が2面出てきそうなので、7-2=5で「五面体」になると考える。実際、その通りなのだ。

ついでに、これにもう一つ正四面体(B)をくっつけても「五面体」のままである。

さて、この船のような形をした立体をもう一つ用意する。

この2つの立体を組み合わせて「正四面体」をつくれ、という問題。簡単なようで悩む人が多い。(上の写真は同じ立体を2つ並べたところ。左と右は、見る向きが違うだけ。)

2022年3月19日土曜日

正四面体がいっぱい(1)

以前、ビー玉を積んだ構造を調べたとき、互いに接する3個のビー玉の上に1個のビー玉を乗せた構造が最も密で、安定することが分かった。自然界が好むと考えられるこのような形状を、正四面体構造と呼ぶ。
化学では、中央の原子の周りに、4個の別の原子が正四面体の頂点の位置に置かれる分子構造がよく見られ、四面体形分子構造と呼ぶ。例えば、中央に1個の炭素C、周りに4個の水素Hをもつメタン(CH4)などがある。
今回は、この正四面体、および、正四面体構造について考えてみよう。

(1)正六面体(立方体)を切る

正四面体も正六面体も、正多面体に属する。
正多面体とは、①面が1種類の正多角形からなる、②頂点に集まる面の数が同じ、③凸多面体である、という条件を満たす多面体のことで、正四面体、正六面体、正八面体、正十二面体、正二十面体の五種類しかない。
正多面体に関するさまざまな特徴については、書物やネット上に多く掲載されているので、ややマイナーなところ(生徒がたぶん知らないこと)を掘り下げていこう。

まず、正四面体、正六面体、正八面体について、面と面のなす角(二面角)を測ってみよう。
二面角とは、2つの面が作る交線に垂直な、2直線がなす角のことである。

生徒の測定結果は、正四面体が70°、正六面体が90°、正八面体が110°であった。
正確には、
 正四面体:70.5°
 正六面体:90°
 正八面体:109.5° となる。
自分たちで測定した値は、聞いただけのときよりも記憶に残るだろう。

では、ここからが問題。
正六面体(立方体)の隣り合わない3頂点を選び、これを含む平面で切断するとき、三角錐(水色部分)はいくつ切り出せるか。また、切断して残った立体はどんな形か。

三角錐を切り出すとき、切り口は正三角形になる。その正三角形の頂点として利用する立方体の頂点は、下の図のように4つある(赤い点)。


立方体の残りの頂点4つが、三角錐の頂点部分にあたるので、水色の三角錐は4つ切り出せることが分かる。
では、切り取って残った立体はどんなものか。
切断面が同じ大きさの正三角形であること、その切断面が4面あることから、「正四面体」であることが推測される。

実際に、切って確かめてみよう。
立方体の発泡スチロールに、厚紙でつくったガードをあてて電熱カッターで切る。
途中経過も写真に収めたので紹介しよう。


三角錐を3個切り落とすところまでくると「正四面体」が見えてくる。
これら5つの立体を、真上から見たところ、斜め上から見たところは次の通り。


切断面は同じなので、上から見ると同じ大きさの正三角形が5つ並ぶが、切り取った三角錐と切り取られて残った三角錐(正四面体)とでは、高さが違っている。その高さの違いはちょうど2倍のようだ。「2倍」であることをどう確かめればよいか。

それぞれの高さを三平方の定理を使って計算で求めることもできるが、たとえば、こんな説明はどうだろう。
もとの立方体の一辺を1とすると、切り取った三角錐の体積は、(1/3)×(1/2)×1×1=1/6で、これが4つあるので合わせて、4/6=2/3になる。よって、残った三角錐(正四面体)は、1ー2/3=1/3。底面の正三角形は同じ大きさの正三角形なので、それぞれの体積が、1/6と1/3 になるということは、高さの違いが「2倍」であるといえる。

2022年3月18日金曜日

サイコロゲーム(5)

(5)六面サイコロによる対戦ゲーム

これまでの対戦ゲームを、一般的な立方体のサイコロを使って行ったらどうなるか考えてみた。
面の数が1つ増えるだけなのだが、サイコロパターンや勝敗の計算はぐんと複雑になる。

まず、「1,2,3,4,5,6」の目をもつサイコロを基本形と考え、6面の「目」のパターンについて、次の条件を満たすものが何通りあるか考える。
(a)1から6の整数のみをつける
(b)目の和が「21」になるようにする


条件を満たすサイコロの出る目の期待値(平均)は「3.5」となるので、下のようにグラフィカルに、1から6までの数を割り振りながら見つけていく方法もよいだろう。
見落としがなければ、次の32通りがすべてだと思われる。
(例)①「6,6,6,1,1,1」、②「6,6,5,2,1,1」

2チームに分かれて、これら32種類の6面サイコロから1つずつを選んでこれを振り、大きい目の出た方が勝ちとするゲームを行う。
かなりの回数の試行を繰り返すことを想定したとき、対戦相手による有利(○)不利(×)互角(△)は、次のような結果になる。


対戦の組合せによって有利不利が複雑に存在する。
相手が無作為にサイコロを選ぶとすれば、「655311」か「554331」を使うと勝率が高まることも分かる。

そして、「1,2,3,4,5,6」のサイコロ(基本形)は、他の31種類のサイコロに対して、すべて「引き分け」になる。その理由については、四面サイコロでの解説と同じである。

2022年3月17日木曜日

サイコロゲーム(4)

(4)五面サイコロによる対戦ゲーム

4つの面をもつサイコロで行った実験(対戦ゲーム)を、5つの面をもつサイコロに拡張して考えてみよう。「5面サイコロ」は、五角柱の鉛筆で代用することにする。(別名、合格鉛筆。)
一般的な鉛筆の6面に印をつけてサイコロのように転がして遊んだ(分からないテスト問題で運をためした)経験があるかもしれないが、この五角柱の場合は、面に「目」をかいてはいけない。なぜか。

転がしたとき、面ではなく角が上を向くからだ。角に「目」をかくことで、止まったときのサイコロの「目」が判定できる。

四面サイコロの場合と同様に、五面サイコロに割り振る「目」のパターンについて考えよう。
5つの角に5つ数「1,2,3,4,5」を割り当てたものを基本形とし、次の条件①、②をもつ五面サイコロはいくつ見つけられるだろうか。
① 1から5の整数のみをつける
② 目の和が「15」になるようにする
たとえば、「5,5,3,1,1」はOKだが、「6,3,3,2,1」や「5,4,3,3,1」はNGである。

簡単なようにみえるが、なかなかやっかいな問題である。(計算でぱっと出ない)
結果は以下の通りで、全部で「12種類」が正解。
これら12種類の五面サイコロについて、1回振ったときに出る目の期待値はいくらか。
いずれも、目の和が「15」で、どの目が出るのも1/5の確率だから、期待値は「3」となる。

さて、授業では、24チームがすべて異なるサイコロを1本ずつもち、チーム対抗戦で、大きい目が出た方が勝ちとするゲーム(20回勝負)に取り組んだ。期待値が同じであることからも、どのサイコロも公平なつもりでゲームを始めるのだが、次第に次のような「気づき」が生まれてくる。
生徒たちは、組合せ(相手のサイコロ)によって有利不利がありそうだと感じつつも、それを説明できるまでには至らない「もやもや」時間をすごす。

ちなみに、この3つのサイコロでは、
「5,4,4,1,1」>「3,3,3,3,3」
「3,3,3,3,3」>「5,5,2,2,1」
「5,5,2,2,1」>「5,4,4,1,1」 という力関係、すなわち「三すくみ」が見られる。

授業では、「5,3,3,3,1」と「4,4,3,3,1」が決勝戦で対決し、優勝は「4,4,3,3,1」であった。
サイコロを転がさないで、勝ち負け(有利不利)が予想できただろうかと尋ねると、対戦表(星取り表)が有効であろうという意見がでてきた。実際に表をかいてみると、
理論的にも、「4,4,3,3,1」の方が「5,3,3,3,1」より有利である(10勝8敗7分け)ことが確かめられた。
そして、生徒の出した結論としては、「すべてに勝てる最強のサイコロは存在しない」ということであった。

ところが、各チームがもつ五面サイコロと「1,2,3,4,5」のサイコロ(基本形)との対戦を調べてもらったところ、どのチームも「引き分け」になるという驚きの現象が明らかになる。そして、なぜこのようなことが起こるのかという考察が、この授業のしめくくりとなる。

12種類のサイコロが対戦したときの有利(○)不利(×)互角(△)を表にすると次のようになる。

「1,2,3,4,5」のさいころが引き分ける理由は、四面サイコロの場合と同じであるが、やはり、ことばで説明するのはなかなか難しい。
四面サイコロの「解説その1」は、対戦表をつかって具体的に説明していたので、五面サイコロのケースに当てはめて説明する場合は、いくつかの対戦表をもとに一から説明し直さないといけない。
しかし、「解説その2」と「解説その3」は、数式を使って一般的に説明していたので、ちょっと拡張すればそのまま使えてしまう。数学の一般性、汎用性というものが優れていること、役に立つことに気づいてくれると嬉しい。

<おまけ>
五面サイコロの12種類を見つける方法として、下のように青いブロックの絵を描いて(実際に駒をつくるともっとよい)、バランスよく平均が「3」になるパターンを探すやり方もある。

2022年3月16日水曜日

サイコロゲーム(3)

(3)正四面体サイコロで得点を競う

昨日と同じ正四面体のサイコロを使った対戦ゲームをより高度にしてみた。

2チームに分かれて、これらいずれかのサイコロを1つ選び、これを同時に振って出た目を競うという点は同じだが、今回は次のようなルールによる対戦とする。
サイコロを振って出た目の差を得点(大きい方はプラス、小さいほうはマイナス)とし、これを2回試行したときの得点の合計の大きい方を勝ちとする。
このとき、サイコロA,B,C,Dの中で最強となるものはどれか。

1回振ったときに出る目の期待値はいずれも「2.5」であるから、得点の差は±0で、どれも一緒ではないかと考えてしまう人が多い。
この問題は予想するのも、検証するのもとても困難である。実際にすべての場合を列挙して確かめてみたが、なかなか面倒な作業であった。

①A型 vs B型
 1回目について、Aの出方が4通り、Bので方が4通りで16通り。
 2回目についても16通りあるので、全部で、16×16=256通りを調べることになる。
 結果:「1,2,3,4」(A)は、「2,2,2,4」(B)に対して、108勝102敗46分け
 A>B(Aの方が強い)
②A型 vs C型
 結果:「1,2,3,4」(A)は、「1,3,3,3」(C)に対して、102勝108敗46分け
 C>A(Cの方が強い)
③A型 vs D型
 結果:「1,2,3,4」(A)は、「1,1,4,4」(D)に対して、108勝108敗40分け
 A=D(勝負つかず、互角)
④B型 vs C型
 結果:「2,2,2,4」(B)は、「1,3,3,3」(C)に対して、67勝81敗108分け
 C>B(Cの方が強い)
⑤B型 vs D型
 結果:「2,2,2,4」(B)は、「1,1,4,4」(D)に対して、120勝132敗4分け
 D>B(Dの方が強い)
⑥C型 vs D型
 結果:「1,3,3,3」(B)は、「1,1,4,4」(D)に対して、132勝120敗4分け
 C>D(CDの方が強い)

以上の結果を整理すると、次の表のようになる。

結果からいえるのは、サイコロCがもっとも強く、すべての相手に勝つ、ということ。
サイコロAとサイコロDは、どちらもBに勝つが、Cに負け、AとD同士は互角となること。
そして、サイコロBはどの相手にも負けること。
もっとも、サイコロを振ったときに出る目は偶然に左右されるので、よほどたくさんの試行を繰り返さないとこの理論は実現しない、といわれそうだが。

サイコロを振るという簡単なゲームでもルールを少し変えるだけで、予測できないような過程や結果が展開する。このような多彩なバリエーションは、探究的な課題学習のテーマとしても面白いと思うがどうだろう。

2022年3月15日火曜日

サイコロゲーム(2)

(2)サイコロAが他のサイコロと引き分ける理由

用意した正四面体のサイコロの目のパターンは次のようなものであった。
サイコロの目として用いた数は、
①(なるだけシンプルに)1~4の整数であること
②(不公平がでないように)目の合計を10にそろえること
を条件にしたものであった。
この条件下で考えられる目のパターンは、上記の他にもう一つ「2,2,3,3」(E型)というものが考えられるので、全部で5種類ということになる。
A型は、これらB,C,D,E型のいずれに対しても「6勝6敗4引き分け」になるのだが、その理由について考えてみたい。

昨日の「引き分け」の対戦表をもう一度見てみると、
いずれの場合も「△」が4つ存在していることが分かる。まずは、その辺りから考えてみよう。

[1] 解説その1
サイコロAの相手が、A自身であったとすると、相手は1,2,3,4の目を一つずつもつので「△」が4つ存在する。また、表の中で、△の右は「×」、左は「○」になる。見方を変えると、表の中で、△の上は「×」、下は「○」といってもよい。△を境界にして、○が6つ、×が6つ存在している。
サイコロBとの対戦の場合、相手のサイコロを「1,2,3,4」(A)から「2,2,2,4」(B)に変更したと考える。目の和は10で変わらないので「1→2」と同時に「3→2」のように連動して目の数が変わる。このとき対戦表では、最も左の列の△が一つ下がって○が一つ減り、同時に左から3列目の△が一つ上がって○が一つ増える。つまり、△は4つのままで、○の数と×の数も6つずつが維持される。
同様に、「1,3,3,3」(C)は、「1,2,3,4」(A)を「2→3」「4→3」のように入れ替えたものであり、やはり「△」がずれることで、局所的に○、×の増減は生じるが相殺されることによって、全体としての△、○、×の数は変わらない。
「1,1,4,4」(D)もまた、「2→1」「3→4」の入れ替わりによって、「△」がずれるだけで、△、○、×の総数は変わらない。
△の移動による○と×の入れ替わりが必ずペアになって現れてくるのは、目の和を一定(10)にしたことによるものであり、どの対戦相手に対しても、A型vsA型の対戦と同様の結果(引き分け)を導くことになる。
したがって、△が4つ、○が6つ、×が6つという状態が常に維持される。
すなわち、サイコロAは、対戦相手によらず、必ず6勝6敗4分けで引き分けになる。

[2] 解説その2
もう少し一般的な説明(数式による表現)ができないだろうか。
相手のサイコロの4つの目を、a,b,c,dとするとき、1≦a,b,c,d≦4、a+b+c+d=10である。
サイコロAは1から4の目を1つずつもっているので、相手のサイコロのa,b,c,dのうち、一つが「4」であるとき3つの「×」、「3」であるとき2つの「×」、「2」であるとき1つの「×」をもつことになる。つまり「目の数ー1」の負け数が見込まれる。つまり、負け数の合計は、(aー1)+(bー1)+(c-1)+(d-1)=a+b+c+d-4=6 となることから、負け数は常に「6」になることがわかる。また、目の出方は全部で16通りあり、そのうち引き分けは必ず4通りあるので、×が6つ、△が4つ、○が6つとなる。
すなわち、サイコロAは、対戦相手によらず、必ず6勝6敗4分けで引き分けになる。

[3] 解説その3
別の数式によってこの現象を説明してみよう。
相手のサイコロの目について、「4」がp個、「3」がq個、「2」がr個、「1」がs個あるとすると、目の数の和が10であることから、4p+3q+2r+s=10 ・・・① と表せる。
また、引き分けになるのは、p+q+r+s=4 ・・・② の4通りある。
負ける(×がつく)のは、相手の「2」に対してr回、「3」に対して2q回、「4」に対しては3p回となるので、合計「3p+2q+r」回あるのだが、①ー②より、3p+2q+r=6 が導けるので、負け数は「6」であることが分かる。
目の出方は16通り、引き分けは4通りなので、×が6つ、△が4つ、○が6つとなる。
すなわち、サイコロAは、対戦相手によらず、必ず6勝6敗4分けで、引き分けになる。

いろいろな説明の仕方ができるという点で、探究活動に相応しい教材であると思う。

2022年3月14日月曜日

サイコロゲーム(1)

(1)四面サイコロの最強パターンをみつける

4つの面の目の数が次のようなパターンをもつ正四面体のサイコロA,B,C,Dをつくる。
A:1,2,3,4
B:2,2,2,4
C:1,3,3,3
D:1,1,4,4
工作用紙で正三角形を4つ並べた平行四辺形をつくり、各面にドットシールを貼ったり、パンチで穴を空けたりしてから組み立てる。「出た目」は底面の数とする。

これらはいずれも、目の合計が「10」になっているので、出る目の平均(期待値)は「2.5」である。
2チームに分かれてそれぞれ4種類のサイコロから1つを選んで対戦する。
同時にサイコロを投げて、出た目の数が大きい方に勝ち点1を与え、先に勝ち点が10になったチームを勝者とする。

このゲームにおいて、4種類のサイコロのうち、どれがいちばん強いサイコロといえるだろうか。
1回振って出る目の期待値はどのサイコロも同じなので、勝負は時の運次第だろう、そう考える人が多い。果たしてそうだろうか。
実は、選んだ2種類のサイコロによって、有利・不利がある。実際にたくさん試行を繰り返してみると、それが明らかになってくる。遊びながら、不思議に感じて、なぜだろうと考え始めてくれることを期待する。

たとえば、サイコロCとサイコロBが対戦するとき、その目の出方は全部で16通りある。そして、起こりやすさはどれも同じである。
対戦表(星取り表)に表すと、Cが勝つ場合が9通り、Bか勝つ場合が7通りとなり、Cの方が有利であることが分かる。

次に、サイコロDとサイコロCの対戦について調べてみると、
16通りの組合せのうち、Dが勝つ場合が8通り、Cか勝つ場合が6通りで、Dの方が有利と分かる。
強い方を「>」で表すことにすると、上の結果は、D>C、C>B のように表現できる。
この結果から、B,C,Dの強さは、D>C>B(左の方が強い)になると予想したくなるのだが、・・・

BとDが対戦してみると、
Bが勝つ場合が8通り、Dが勝つ場合が6通りで、Bの方が有利であることが分かる。
これら3種類のサイコロは、ジャンケンのグー、チョキ、パーのような「三すくみ」になっている。
すなわち、D>C、C>B、B>D という関係が成り立つ。

では、残るサイコロAが、これらのサイコロB,C,Dと対戦したときはどうなるだろうか。
同じ要領で、対戦表で調べてみると、
AとBの対戦:6勝6敗4分け
AとCの対戦:6勝6敗4分け
AとDの対戦:6勝6敗4分け という結果になる。

つまり、サイコロA(1,2,3,4)は、どのサイコロにも引き分ける、という現象が見られる。
サイコロAはどのサイコロにも負けないという意味で「最強」といえるかもしれない。(勝てないけど)
なぜ、サイコロAは他のすべてのサイコロと引き分けるのだろうか。